来世はセロリになりたい、
しびれ
なんだか久しぶりだな。
金メッキの楽器には碧と白の斑が映る。
運動部がなんとなくリズムに乗ってこちらを見ている。
金メッキに移る空に気づくと、ゆっくりと上を見た。金メッキに写っているのと同じだと知ると、少しため息をついてしまった。
ふと視線を感じて目線を変えると彼女はこちらを見ていた、目が合うと少し笑って帰って行った。
日が強いからか少し機嫌が悪かった彼女は、少しだけ、少しだけ、美しかった。
彼女のことを考えたくないと思っても考えてしまう。
私は彼女が大嫌いだ、それはきっと彼女も同じだろうと酷く感じた。

私の友達はみんな彼女が嫌いだ。
中でも私は大嫌いだ。自分とはまず価値観が会わないし、そういう人間とは上手くやろうと思ってない、相手も私のことを嫌いだと思っていることは態度から明らかだからということもある。

「セロリ」

何度かその言葉を口にして考えるけどよく分からない、暑くて暑くて仕方ない。気温のせいか、彼女のせいなのか、楽譜と楽器を持つと私は部室に向かって歩いた。
長い長い彼女がいつも通る廊下をぬけ、校内に入ると、窓に移るポニーテールをみて気分が上がる。
音楽が始まりそうな部室では、彼女が居ないことをいいことに賑やかに騒いでいた。
こんな部活も嫌いではない。
友達の話は相変わらず頭に入ってこない、適当に相槌を打つと、彼女がいない部活は少し気に食わないことに気づいてしまった。

「凛子はチューニング終わった?」
自分の名前が呼ばれた事に気づいた私は部長と呼ばれている生徒の方をみる。
それと同時に部長が回ってきたのに友達は気づいて咄嗟に元の場所に戻る。
元気に明るく返事をすると、部長は少し笑って、先生は合奏来ないみたいだよ、良かったね、そう言ってトランペットパートの所へ向かった。
良かった、彼女は来ない。

彼女を見ると集中出来ない。


合奏が終わり、片付けに入る。
彼女はミーティングには来るだろうか、
部室にある等身大鏡に目をやると、彼女よりもずっと高い高身長の自分と、いい感じにネックが曲がった楽器が映る。
制服を見ると彼女との差に気づいてしまうから嫌いだ。

1年生が初めて参加する合奏に顧問が来ないとはどういうことだと部長と副部長が愚痴を言う。
これから3年間、大っ嫌いな顧問、彼女との学校生活が始まる。

「ごめんごめん、明日はコンクール曲を決めます。1年生は経験者、未経験者含めオーディションをしてメンバーを決めます。詳しいことは後日。」

やっと来たくせに反省してなさそうな態度は相変わらず部員全員を困惑させる。
童顔でふんわりとした彼女は見た目とは裏腹に気が強い。
私は強がりだからか、1年生にしてもう目をつけられてしまった、もちろん悪い意味でだ




「コンクール曲決まったね」

高校に入り、初めての合奏から1日。
他人に興味が無い割には私の周りには人が集まってくる、こう見えて明るい性格だからだろうか、そうだねと返事をすると、コンクールについての話が始まった、
吹奏楽コンクールというのは年に一度の要するに大会だ。
高校にもなると、私のように中学での経験者、そうでないものも、顧問によるオーディションに参加させられ、ソロパートやメンバーを決める。
自分の担当であるテナーサックスはあまり人がいないし、経験者なので落ちることはないだろう。
「今回のコンクール曲、恋愛っぽいやつらしいよ。」
「まじで、聴いてないわ、」
「コンクールとか出たことないから分からないわー、」
「まじキツイよ、」
「それな」
周りにいる「友達」は話を続ける。

家に帰ると今日決まったコンクール曲を聴いてみた。
2回ほどコンクールには出たが、和をペーストとした曲は初めてかもしれない。
曲を聞いていると彼女を思い出してしまった、すきなアーティストの曲にも彼女が現れる。
大嫌いな彼女が、そんなに私は彼女が嫌いなのかと自分でも恐ろしくなる。
いつの間にか終わっていた曲は、もう違う音楽にと入れ替わる。

大嫌いな彼女に、不思議な感情が、生まれる、よく分からない、とりあえず今日は寝ようと、イヤホンを投げ捨ててベッドに入った。
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