新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
混乱する私を連れてしばらく歩いた越智くんが、不意に立ち止まった。

ドキドキしながら同じように足を止めた私を、振り返る。



『……悪かった宮坂。ここまで強引に、連れてきて』

『ううん、それは、大丈夫なんだけど……あの、さっきのは、なんで?』



堪えきれずに訊ねると、彼はますます苦虫を噛み潰したような顔をした。

ともすれば怒っているとも感じ取れるその表情は、だけど、威圧感なんてものは感じない。

おそらく、きっと、たぶん。
困り果てて戸惑っているだけな越智くんは、自らの言動を恥じ入るように目を伏せた。



『本当に、ごめん。さっきのは、ついとっさに口から出て……けどああ言わないと、おまえが、連れてかれると思ったから』



先ほどから驚いたままの私を、ばつの悪そうな彼が見下ろす。



『……嫌だったか?』



……この聞き方は、ずるいんじゃないかなあ。

だって、これは……答える私の方も、ものすごく恥ずかしい。



『い、嫌では、なかったよ……』



小さな声で返した本心に、『そっか』って安心したような笑顔を見せてくるのも、ずるい。

他の同期が待つところまで、彼はそのまま私の手を引いてくれた。

──またはぐれたら、困るから。

周りの喧騒にかき消されないよう、唇を耳もとへ寄せてささやいた彼の声音が、眼差しが、優しくて……私はずっと、痛いくらいに胸を高鳴らせていた。
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