新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
唇が重なったのは、せいぜい3秒ほどだ。

だけど私には永遠のように長く感じられて、同時に、とても一瞬のことのようにも思えた。

触れていた唇が離れ、至近距離で視線が絡んだそのとき、花火がフィナーレを迎える。

色とりどりのスターマインが夜空に咲いて、あたり一面を鮮やかに照らした。

なのに私たちはそちらを見ることなく、互いから目を逸らさずにいる。



「……嫌だったか?」



じっと私を見つめる彼がささやいたひと言が、思い出したばかりの記憶と重なる。

私ははちきれそうなほど胸を高鳴らせながら、僅かに首を横に動かした。



「嫌じゃ、ない……」



小さく漏らした声はきちんと彼の耳に届いたらしく、ふっとその目もとと頬が緩む。



「花火、もう終わっちゃったな。帰ろうか」

「……うん」



うなずいた私の手を取って、皐月くんがベンチから腰を上げた。

つられるように立った私は、彼が貸してくれたハンカチを片手に握りしめながら、斜め前を歩くその横顔をひそかに盗み見る。

──ああ、好きだなあ。

自然とそう思ったことを、特別不思議には感じなかった。

だって、私が皐月くんのことを好きになるのは、あたりまえのことだ。

こんなに大切にされて。こんなに守られて。

記憶が抜け落ちている期間の……私の知らない“私”だって、この人と一生を添い遂げることを願うくらい、彼のことを愛していたのだから。

少し勇気を出して、繋がった手に自分から力を込めた。

同じように強く握り返してくれるその手のひらのあたたかさに、私はどうしようもなく泣きそうになって。

幸福を噛みしめながら、夏の夜は更けていった。
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