新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
「……足、痛めたりしてないか?」
ふたりで暮らすマンションの前にたどり着いたとき、皐月くんが気遣わしげに訊ねてきた。
私は「大丈夫」と返して、またそっと自分の左手に視線を落とす。
花火を観たベンチから少し歩いて駅に向かうシャトルバスに乗り、そして電車で自宅の最寄り駅へとやって来たあと、マンションに徒歩で戻った今このときまで……私たちの手は、ずっと繋がったままでいる。
途中、バスや電車の乗り降りで、離れることはあった。
だけどそんなときもまた、どちらともなく自然と手を取り合って、結局ここまでやって来たのだ。
今日もきっと熱帯夜だというのに、重なった手のひらのぬくもりは心地よくて、離れ難い。
皐月くんも……私と同じ気持ちでいてくれたなら、いいのに。
玄関の扉を開けると、むわっとした蒸し暑い空気に包まれて思わず顔をしかめた。
ここでようやく、私たちは手を離す。先に家の中に上がった皐月くんの背中を見ながら無意識に寂しさを感じて、そんな自分に恥ずかしくなる。
どうせ、一緒の家に帰っているのに……こんなことで寂しいと思うなんて、私、どれだけ甘えたがりなんだろう。
皐月くんがいつも、私のことをたくさん甘やかしてくれるから……それに慣れて、きっとこんな女になってしまったんだ。
自分勝手にそんなことを思いながら、私も少し遅れて下駄を脱ぐ。
リビングの照明とエアコンをつけてくれていた皐月くんは、入ってきた私を振り向いて微笑んだ。