新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
私の言葉を聞いた瞬間、皐月くんが目を見開く。

男らしいでっぱりのあるその喉が、ゴクリと鳴った気がした。

女の自分から誘うなんて、はしたないと思われただろうか。

だけど……きっと皐月くんなら、自然に、優しく受け入れてくれるんじゃないかって。そんなふうにも、思ってしまうのだ。

羞恥心でいっぱいの私はドキドキと胸を高鳴らせながら、もう彼の顔が見られなくてうつむいている。

すぐそばから、深く、息を吐く音が聞こえた。

そのため息にビクッと肩をはねさせた私の頭上から、想像とは違った声が降ってくる。



「……ダメだ。そういうことを、軽々しく言うな」

「え」



驚きのあまり、反射的に顔を上げた。

皐月くんはこちらを見ていなかった。ただなぜか、どこか苦しげに眉を寄せ、ひたすら私と目を合わせまいとするように斜め下を向いている。



「そういうのは……おまえは気にしなくていい。だからもう、そんなふうに、言うな」



頭を鈍器で殴られたかのような衝撃だった。

『軽々しく』なんて、言ったわけじゃない。

皐月くんのことが、大好きだから。もっと近づきたいって、思ったから。

その気持ちを、“宮坂 礼”を奥さんに選んでくれた彼は、受け止めてくれるんじゃないかって──心のどこかでそう期待したからこそ、あんな思いきったことを言えたのだ。
< 107 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop