新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
私は胸のあたりまで掛け布団を引き下ろすと、きちんと越智くんに目を向けながらふるふる首を横に振った。



「ううん、そんなことない。いろいろ教えて、私たちのこと」



目を合わせて言いきる。

彼は驚いたような表情をしたあと、さっきまでより少しだけ肩の力を抜いたようだった。



「……ああ。もし話してる間に具合が悪くなったりしたら、遠慮せずに言ってくれ」



そう前置きをして、越智くんは私たちふたりに関することを、落ちついた声音でポツポツと語ってくれた。

今は、この病院からもほど近いマンションで暮らしていること。

入籍したのは、去年の5月4日。越智くんの31歳の誕生日だったこと。

ちなみに、越智くんは院卒のため私より2歳年上だ。これは研修の時点で耳にしていたから、今の私も知っている情報だった。

現在の彼は本社の融資部個人融資課で、課長の役席についているらしい。

この歳にしては異例の出世だと、私にでもわかる。素直に「すごいね!」と漏らすと、越智くんは少し笑って「ありがとう」と言った。

驚いたのは、私が結婚を機に6年勤めた銀行を辞め、新たにカフェ店員としてアルバイトを始めていたことだ。

実は私の実家の両親は、北海道の離島で小さな喫茶店を営んでいる。今どきのオシャレで若者向けのカフェじゃなく、お客さんの大半が常連さんという昔ながらのお店だ。

小さい頃から、私はコーヒーのいい香りで満たされたその空間が大好きで。友達と遊ぶより、お店に入り浸って常連の大人たちと話すことを好む、ちょっと変わった子どもだった。
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