新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
そしてある程度の年齢になると、今度は親にせがんでコーヒーの善し悪しや淹れ方を教えてもらったりして……まだまだ未熟ではあるけれど、少なくともうちの常連さんが合格を出してくれるまでのものは淹れられるようになった。

広い世界を知って欲しいという両親の希望と、私自身たくさんのことを学んで吸収したい気持ちはあったから、都会の大学に進学してひとまず一般企業への就職の道を選んだけれど。

実家を継ぐにしても他に出すにしても、社会人として満足できるまで経験を積んだらいつかバリスタに関する資格を取って自分のお店を持ちたいな、なんてぼんやりとした将来の展望は、就活の時点ですでに持っていた。

だけどまさか本当に、その夢に向かって自分が動き出していたとは。

せっかく就職した銀行で働いた記憶がないまま転職してしまっているなんて、少し複雑な心境だ。



「北海道のお義父さんとお義母さんには、昨日礼が救急車で運ばれた時点で連絡してある。さっき検査を受けていた間にも、目覚めたことを電話で伝えておいた」

「あ……」



彼の言葉に、思わず声が漏れる。

きゅっと下唇を噛みしめたのは無意識だ。

そんな私を見てから、また越智くんが口を開く。
< 12 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop