新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
思ってもいなかった呼びかけに驚き、反射的に顔を向けた。

こちらを見下ろす、見知らぬ人物と目が合う。



「あ、やっぱり宮坂さんだ。うわ、すごい久しぶりだね」

「え……っと、」



パッと顔を明るくしたその男性の言葉に、戸惑った。

どうしよう。もしかして、記憶がない期間の知り合いなのだろうか。

カフェの方に来たことのあるお客さんの顔と、思い出せる限りで照らし合わせてみるけれど……私と同じくらいか少し年上に思える一見さわやかな好青年風の男性に、覚えはない。

困りきった私は、あからさまにしどろもどろしてしまう。

そんな私の反応に、男性は何か察したのだろう。さっきまでのにこやかな表情を引っ込め、眉を寄せて頬を引き攣らせた。



「は? もしかして、俺のこともう忘れたとか?」

「あ……えっと、あの」

「いや、さすがにありえないでしょ。宮坂さんが本店に来てから俺が窓口に行かなくなるまでの半年以上、ほぼ毎日顔合わせてたのに」



苛立ったような男性のセリフで、なんとなく理解する。

そうか。たぶんこの男性は、職場である銀行の窓口によく来る取引先の人なんだ。

もしそうなら、いくらもう退職してしまっているとはいえ、私のこの態度は失礼にもほどがある。
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