新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
最後に書いた自分の名前のひとつ上の行には、1度は書いたものの消しゴムで消してしまった【大好きです。】の跡が、うっすら見えた。

……ああ、なんだ、そっか。

“私”が叶わない恋をしていたのは、菊池くんにじゃない。

やっぱり“私”は……皐月くんのことが、好きだったんだ。

好きだから、彼と、結婚したんだ。

手紙を読み終えた今、契約結婚の話を聞いてからずっと抱いていた違和感が解消された。本当に“私”は不器用で、大馬鹿者だ。

途中から、あふれる涙で文字を追うのが難しくなっていた。
この手紙を書いていたときも泣いていたのか、ところどころ水滴が落ちて乾いたような痕跡がある。

……そう、私は、泣いていた。

大好きな彼への秘めた想いを、初めて文字という形にして綴りながら、ボロボロに泣いていたのだ。



「あ……?」



ひどい頭痛が急に訪れ、手紙を持ったまま前のめりに頭を抱えた。

息苦しい。どっと冷や汗が噴き出す。耳鳴りがする。

頭が、割れそう。

床に膝をつく。歯を食いしばって痛みに耐える。

そして十数秒後、それらの症状が嘘のように引いたときには──……私は、すべての記憶を思い出していた。
< 147 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop