新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
私のお気に入りのお店の、お気に入りのプリン。
病室に入ってきたときに皐月くんが持ってた紙袋は、これだったんだ。

盛大に落っことしてたけど、プリンが無事でよかった……!



「今の礼も、ここのプリンが好物なんだな。はい、少しよれてて悪いんだけど」

「うん、大好き! 大丈夫だよ、ありがとう」



プリンとスプーンを受け取るときの私は、たぶん、目覚めてから1番いい笑顔だったかもしれない。

さっそくひと匙すくって、そうっと口に入れる。

たまごの風味をしっかり感じる、とろとろに甘くておいしい味が口いっぱいに広がって、自然と頬が緩んだ。



「ふふふふふ、おいしい~幸せ~」



つぶやきながら、もうひとすくい。はあ、このとろっとしたクリーム色のビジュアルがもうおいしい……。

プリンを堪能し完全に悦に浸っていた私は、ふと、立ったままでいる皐月くんが片手で口もとを隠すようにしながら小刻みに震えていることに気がついた。

ハッとして我に返るけど、時すでに遅し。
堪えきれなくなったらしい彼が、とうとう肩まで震わせ始める。



「くっ、礼、ほんと、ここのプリン好きなんだな……っ」

「う、あのそれは、そうなんだけどっ」

「はは、よかった。買ってきておいて」



そう言った彼こそが、今日1番の笑顔だった。

向けられた破壊力抜群のその表情に、ドキンと胸が高鳴る。
と同時に、はしたないところを見られた羞恥で顔が熱くなった。

もしかしたら29歳の私は、自分でも予想以上に、今よりずっと落ちついているのかもしれない。こんな子どもみたいな反応は、彼の前で見せてなかったのかも。

なのに今、大好物のプリンを前に年甲斐もなくはしゃいで、旦那サマである皐月くんに笑われてしまうとは……なんだか、未来の自分に申し訳ないような気さえしてくる。
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