新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
「ごめんね、心配かけちゃって……!」

「いや……俺の早とちりだ。こっちこそ悪い」



答えながら、皐月くんはホッとした笑みを浮かべる。



「礼に何かあったわけじゃないなら、よかった」



その微笑みと優しい声音に、きゅーっと胸が締めつけられた。

ベンチ上の隣に置いた日記帳に1度触れ、そのこぶしをきつく握る。

……皐月くんが、好き。

だけど、この気持ちは彼にとって重荷にしかならない。

だからもう、終わらせよう。この、いびつな関係を。



「本当に、ごめんなさい。……帰ろっか」

「ああ」



答えながら立ち上がった彼が、左手を差し出す。

手のひらを重ねてベンチから腰を上げた私は、少しの間その体温を自分の心に刻みつけてから、するりと手を離した。



「ありがとう。あ、どうしよう、まだごはん準備してなかったんだ」

「いいよ。何か買って帰るか」



申し訳なくつぶやくと、彼はあっさりと返してくれる。

その言葉にうなずいて、私は月の見えない夕闇の空を見上げた。



「……うん、ありがと。あのね、皐月くん」

「ん?」



名前を呼ぶと、当たり前に返事をしてくれる。

きっともうすぐ、こんなふうに名前を呼ぶこともなくなるんだと思ったら、今すぐここで泣いてしまいたくなった。



「帰ったら、ごはん食べて、そしたら──……」



だけど、それは今じゃない。

私は大好きな人に、精一杯笑ってみせた。



「……大事な話が、あるんだ」
< 170 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop