新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
だけどそれも、今日で終わりにしなくては。

私は涙のにじみそうな目もとに必死で力を込めながら、また口を開く。



「だからね、皐月くん。私が記憶を失くした日……あなたに伝えようと思っていたことも、全部思い出した」



彼の表情がギシリと強ばった。

それに構わず、私は続ける。



「皐月くんはあの日、私の部屋の様子に気づいたんだよね? だから、私を迎えに来た」



思い出す。約1ヶ月半前のあの日に、起きた出来事を。

涙を堪えながらまとめた荷物。重いバッグを手に急いだ帰り道。

夕陽を背に私を見下ろす彼は、困惑の表情を浮かべていた。



「皐月くんに……これを、読んで欲しいの」



苦々しげな顔で黙っていた彼に、私は手にしていたものを差し出す。

それは、あの鍵付きのアンティークボックスの中に隠されていた手紙だった。

これを読んでもらえれば、すべてがわかる。

私が──宮坂 礼がずっと必死に隠してきた想いの、すべてが。

戸惑った様子で手紙を受け取り、皐月くんが中に入っていた便箋を広げる。

文字を追うその横顔がだんだんと驚愕の表情になっていくのを、斜め下からじっと見つめた。



【1年間ありがとう。『越智 礼』でいられた私は、幸せでした。】



最後の行にあるその文章を読み終えたらしい彼が、呆然と「これは……」と小さく漏らした。

ここまで来て、私はそんな皐月くんの顔を見るのがこわくなる。

膝に置いた自分の手に視線を落としながら答えた。
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