新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
「そこに書いてあることが、すべてです。私はもう、ここにはいられない」

「……どうして」



低く、小さな声が降ってくる。

私はきゅっと眉を寄せて、唇を動かした。



「……皐月くんのことが、好きだから。この結婚で、それは、契約違反でしょう?」



もっとも、契約違反なら、本当は最初からしていた。

隠し通すつもりで、だけどもう、気持ちを押し殺すことができなくなってしまった。

まるで罪人の気分で次の彼の言葉を待つ私に、降ってきたのは予想外のセリフだった。



「……菊池は」

「え?」



反射的に顔を上げて、皐月くんと目が合う。

彼はやけに静かな眼差しで、私のことを見据えていた。



「礼が好きなのは、菊池なんじゃ、なかったのか」



先ほどまでの動揺したものから、彼の声音はやけに据わったトーンに変わっている。

眼差しの強さも相まって、その変化に私の方がうろたえていた。

コク、と唾を飲み込んでから、口を開く。



「たしかに1度は……菊池くんに恋をしたよ。だけど、失恋してちゃんとふっ切れてた」

「……泣いてただろ。こないだ、菊池たちの家に行った帰りに」

「あれは、違うの。だって私は、ほのかと同じようにはなれないから。大好きな人に愛されて、その人との子どもを産むなんて、絶対にできないから……悲しくて、契約結婚のことも忘れてたはずなのに、勝手に涙が出たんだと思う」
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