新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
そこでじっと、皐月くんの目を見つめ返す。



「私がずっと好きなのは、皐月くんです。失恋したあのとき、皐月くんがそばにいてくれて、私を思いきり泣かせてくれたから……だから私は、早く立ち直れたんだと思う。調子いいかもしれないけど、たぶんきっと、そのあとすぐに皐月くんのことを好きになったの」

「……俺は何も、好かれるようなところなんて」

「あるよ、たくさん。皐月くんは、素敵な人だよ」



言葉に力がこもった。皐月くんが、きゅっと何かを堪えるように眉を寄せる。



「アイツらの結婚式の帰りで、あんなふうに言ってたから……おまえは、菊池のことが忘れられないんだと思ってた」



おそらくそれは、私が『叶わない恋をしている相手がいる』と口を滑らせたあの件だろう。

そこで思わず、苦笑が漏れた。



「皐月くんが一生結婚するつもりないって、知ってたから。だからお酒の勢いで、あんなこと言っちゃったんだ」



言ってから、自分の左手に視線を落とす。



「私が記憶を失くしたのは……もしかすると、皐月くんを好きになる前に戻りたいと思っていたからかもしれない。ここでの生活は幸せで、それと同じくらい、ずっと苦しかったから。……でも、そんなの意味なかった。いくら皐月くんに恋した自分を消してしまっても、結局私はまた、懲りずにあなたを好きになったの」



薬指に光る銀色のリング。もうこれは、外さなくてはいけない。

覚悟を決めて、再び彼に視線を向けた。
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