新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
「実は買ったとき、このプリンの匂いに誘われて目を覚まさないかなってちょっと思ってた」

「えぇ……っもう、からかわないでよ~」



彼がメガネの奥の目を細めてそんなことを言うから、思わず情けない声が漏れた。

皐月くん、優しいけど生真面目なタイプかと思ってたのに……意外とちょっと意地悪で、ユーモアもある?

研修で少し話しただけじゃ、わからなかった彼の一面。まさか、こんなふうに知ることになるなんて。

なぜかドキドキと大きく鳴る心臓が、収まってくれない。



「あとふたつ入ってるから、好きなときに食べて」

「え、皐月くんは?」

「俺はいいよ。礼に買ってきたものだから」



あっさり彼は答えたけれど、返された私は両手にプリンとスプーンを持ったままむうっと唇を尖らせた。

大好きなお店の大好きなプリンを、たくさん食べられるのはたしかにうれしい。

けど、私は。



「皐月くん」



呼びながら、ベッドのふちをポフポフ叩いた。

床頭台の前に立って首をかしげている皐月くんを、手の動きを止めないままじっと見つめる。



「皐月くん、ここ座って。一緒にプリン食べよう」

「え? ……いや、俺は」

「おいしいものは、好きな人と一緒に食べるともっとおいしくなるんだよ。だから、食べよう?」



そう言って微笑んだ私を、彼が目を丸くして見下ろしていた。

彼の反応に、少し遅れて私はハッとする。

……今私、『好きな人』って!

いや、皐月くんと結婚してるってことは、彼が今の私の好きな人ってことに間違いはないのだろうけど!

それにしたって、記憶がないこの状態でさっきのセリフは恥ずかしい。無意識で自然に口からスルッと出てきちゃったから、自分でもびっくりしたよ……!

今の“私”が、それだけ彼のことが好きだということなのだろうか。あっ、というか今さらだけどもしかして、皐月くん甘いの苦手だったりとか……?!

掛け布団に落とした視線をうろうろと泳がせながら、次になんと言えばいいのか激しく迷う。
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