新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
その感情を自覚したのは、彼女が菊池に想いを寄せていた事実を知ったあの夜だ。

頭の中が真っ白になって、必要以上のショックを受けている自分に気づいたときに理解した。ああ、これが、誰かを好きになるという気持ちなんだと。

そして今、彼女が失恋したというならば──つまり自分も、同じように失恋をしたことになるのだと。

俺の胸にしがみつき、けれども他の男のことを想って涙を流す宮坂の背中を撫でながら、この世界はなんてままならないんだと夜空に浮かぶ月を仰ぎ見た。

こんなにも今近くにいて、守りたい、と痛烈に思うのに、心は遥か遠い。その事実に打ちのめされ、だけど、抱きしめる手を離そうとは思えなかった。

考えてみれば、俺は初めから、宮坂 礼に対してだけは他の同期たちとは少し違う感情を持っていたように思う。

入行前の研修時にした何気ないやり取りがしばらく忘れられず、ふとした瞬間に思い出しては俺の頬を緩ませた。

研修や同期会で会う機会があったときは、自然とその姿を探している。

彼女の笑顔を見ると、まるで灯りがともったように心があたたかくなる。

何のことはない。自分では気づいていなかっただけで、とっくに俺は、宮坂に恋をしていたのだ。
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