新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
「……礼」



かけられた声にハッとして、慌ててそちらに顔を向ける。

白いTシャツに薄手の黒い七分丈パンツのラフな格好で、肩にタオルをかけた皐月くんがそこにはいた。

その髪はしっとりと湿っていて、メガネを外した見慣れない姿にドキドキと心臓が高鳴る。



「大丈夫か? 風呂、もう空いたけど」

「あ、うん。だいじょーぶ!」



答えながら、わたわたとソファから立ち上がった。

つけっぱなしのテレビを見ることもせず、ソファに深く背を預けてぼんやりしていたところを見られていたらしい。

私に『大丈夫か』と尋ねた皐月くんはどこか心配そうな顔をしていて、その表情を払拭したい私はあえて明るく笑ってみせる。



「ちょっと疲れて、ぼーっとしちゃってた。私もお風呂いただくね」

「ん……タオルの場所とか、大丈夫そうか?」

「うん。ありがとう」



答えながらうなずき、そのままリビングを出て一旦自室へと向かった。

後ろ手にドアを閉めて部屋にひとりきりになると、ついため息が漏れる。

いけない……皐月くんにあんな表情をさせてしまうほど、私はソファでぼんやりしてしまっていたみたいだ。

メガネのない素顔のままの、こちらを気遣う彼の姿を思い出し、両手で頬を包みながらまたほうと息をつく。
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