新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
(1):7年後の世界
ここは、どこだろう。
真っ暗闇で何も見えない。だけどかすかに、声が聞こえた。
切なげに、私を呼ぶ声。それは知っている人のもののはずなのに、なぜかどうしても、名前が思い出せない。
一筋の光が見えた。きっとあそこに行けば、この声の主がわかるのかもしれない。
足を踏み出す。身体が重くて、まるで水の中にでもいるようだ。
だけど、進むことを躊躇わない。
自分を呼ぶその“誰か”のことが、どうしても知りたくて──……私は、光の射す方へ手を伸ばした。
「う……」
ひどく重たく感じるまぶたをこじ開けて、まず目に入ったのは見覚えのない白い天井だった。
規則正しく並んだ模様を、そのままぼんやりと見つめる。
……ここは、どこ?
私、何してたんだっけ?
ゆっくりと上半身を起こした私は、頭部に割れるような痛みを感じて顔をしかめる。
とっさに片手をあてたその場所に、ザラリとした感触。これは……包帯?
遅れて、全身があちこち痛むことにも気がついた。
ベッドの上で身を縮めるようにしながら周囲を見回す。
実際目にしたことはあまりなかったけれど、おそらくここは病棟内の個室であるとすぐに察した。今自分が着ている前合わせの服は、入院着なのだろう。
目が覚めたら病院、なんて。一体これは、どういう状況?