新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
(2):シンクロニシティは突然に
「お待たせいたしました、本日のコーヒーとアイスコーヒーです。フレンチトーストとシフォンケーキは、もう少々お待ちくださいませ」
音をたてないよう気をつけながらテーブルにカップとソーサーを置き、にこりと笑みを浮かべて一礼する。
トレーを持ってカウンターの中に戻ると、フレンチトーストを焼いている店長がこっそり話しかけてきた。
「礼ちゃん、接客がすっかり板についてるね。やっぱり記憶喪失なんて、実は冗談なんじゃないのー?」
「あはは……残念ながら、ほんとのことなんですよ」
からかうような彼女の言葉に苦笑して、私は頬をかく。
ここはCafe fluffy。私が銀行を退職後、去年から働き始めた(らしい)カフェだ。
店長の松井古都音さんは30代半ばのサバサバした性格の女性で、OLとして数年勤めたのち調理系専門学校に入り直し、その後自分の店をオープンさせたというおもしろい経歴の持ち主である。
1週間前から、私はそんな彼女のお店に店員として復帰していた。
「そっかぁ。本当にあるんだねぇ、そんなマンガみたいなこと」
しみじみと話す店長は、先週からもう何度も同じようなことを言っている。
医師の許可を得て退院し、自宅に戻ってからすでに2週間ほど。
私はまだ、失った記憶を取り戻せないでいる。
事故にあって病院で目覚めたあの日からは、もう3週間以上だ。さすがに私は、焦り始めていた。