新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
「よかった……っああ、ほんとによかった、礼……っ」



ベッドのすぐ傍らにきた彼からの痛いくらいに強く熱烈な抱擁に、困惑と驚きと羞恥がいっぺんに押し寄せて頬が熱くなった。

だってこんな、切羽詰まった余裕のない声で──しかも知り合ってからまだ日が浅い彼には、下の名前を呼ばれたことなんてなかったのに。



「そうだ、先生たちにも知らせないと」



ふと彼がつぶやいて、きついハグから唐突に解放された。

顔を上げてナースコールに手を伸ばした彼の目が、うっすら濡れているように見えたことにギョッとする。

え……どうして? なんで、こんな顔をしてるの?

直前まですがりつくように強い力で抱きしめられていた私は、隙間は空いたものの依然近い距離にいる目の前の人物をぼうっと見上げる。

そして彼がナースコールから手を離したタイミングで、ようやく「あの、」と口を開いた。



「えっと、越智(おち)くん、だよね……? あの、これは一体……」



喉から出てきた声は、自分でもびっくりするくらい掠れていた。

それでも目の前にいる彼には届いたらしく、私を見たままなぜか驚いたように固まっている。

私が首をかしげたと同時に、彼──越智くんは、詰めていた息を吐き出して身体の力を抜いた。



「懐かしいな、その呼び方。まだ、混乱してるのか?」



つぶやきながら、越智くんがそっと私の包帯を巻いた頭に触れる。

痛みはなかったけれど、その突然の接触についピクリと震えて反応してしまった。

こちらに伸ばされた越智くんの右手が、行き場を失い宙で動きを止める。

一見真顔ではあるけども、彼のメガネの奥の目が傷ついているように思えて、私は内心ひどく動揺した。
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