新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
すると頭の上に、ポンと優しくあたたかな手のひらが降ってくる。



「謝らなくていい。それに、今までゼロだったものがそうじゃなくなったんだから、大きな進歩だろ」



顔を上げる。視線が交わった皐月くんはやわらかな笑みを浮かべていて、無性に泣きたくなった。

にじんでいた涙を拭い、うなずいた私も彼に向かって笑顔をみせる。



「……ありがと、皐月くん」

「ん。とりあえず、ここ上りきろう」

「うん」



しっかりと繋がった手を引かれながら、階段のてっぺんにたどり着く。

そのまま並んでマンションに向かう道中、私は意を決して口を開いた。



「ねぇ、皐月くん。さっきの……階段の件で、改めて思ったんだけど。記憶を取り戻すには、やっぱり何か特別な出来事だとか思い入れのある場所に積極的に行ってみるのが、有効のような気がするんだ」



こちらに顔を向けている彼と、まっすぐ目を合わせる。



「だから、近いうち……皐月くんと私の思い出の場所、みたいなところがあれば一緒に行ってみたいなあと思うんだけど、どうかな……?」



話し始めよりもかなり弱々しい声音になってしまったけれど、とりあえず自分の考えを伝えられた。

ドキドキしながら彼の返事を待つ。

少し躊躇うような素振りを見せてから、皐月くんが答えた。



「それは……俺は、構わないけど。でも、大丈夫なのか? 医者の話もあるし、毎回さっきの感じだと、礼に負担がかかるんじゃ」

「大丈夫。って、キッパリ言えたらいいんだろうけど……正直わかんないし、ちょっとこわい気持ちもあるんだよね」
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