新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
「うーん……」
目線より少し高い位置にある、立派な額縁に入れられたビビットカラーの幾何学的な絵。
目の前に立ってまじまじとそれを眺める私は、思わず首を捻りながら唸り声を漏らしていた。
白い壁に飾られたその絵は、タイトルから察するにどうやら作者の飼い犬を描いたものらしいのだけど……パッと見てこの絵がワンちゃんだとは到底思いつかないし、なんなら「こんな感じで名作と言われるのなら私の描くイラストだってイイ線いってるのでは……?」とつい真顔で考えてしまったほどだ。
ダメだ。やっぱり私には、生む方も感じる方も美術的センスが皆無なんだ。
虚しくもそう結論づけ、左隣に立っている皐月くんをそっとうかがってみる。
すると彼もまた、私と似たようなハテナ顔で眉間にシワを寄せており、思わず小さく噴き出してしまった。
「礼? どうした?」
「ごめんね。だって皐月くんが、見るからに疑問でいっぱいの顔してたから、つい。まあ、私も同じ表情をしてたと思うんだけど」
場所柄、低く抑えた声で笑うと、皐月くんも首の後ろに手をやりながら少し照れたように微笑む。
その仕草と表情が予想外で、自然に胸がときめいた。
そんな自分を悟られないよう、さりげなく視線を逸らしてまた顔を正面の絵へと向ける。