新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
「えっと……本当に私たち、前にもここにきたの?」



誤魔化し半分で、改めて尋ねてみた。

少しも迷うことなく、見えない隣からあっさり「ああ」と肯定のひとことが返ってくる。

私が言った『ここ』とは、現在訪れている美術館のことだ。

近隣の市に拠点を置く芸術文化財団が運営しており、今目にしている絵は、館内で開催中の展覧会に出展されているもののひとつである。

数日前。記憶喪失になったキッカケの公園で僅かに過去のビジョンを見たことで、今後積極的に私たち夫婦にとっての思い出の地を巡ってみることを決めた。

ふたりの休日が重なっている本日日曜日、その決意を実行するべく皐月くんに案内してもらうことになっている。

そんなわけで、私たちは自宅で朝食を済ませたあと、30分ほどバスに揺られてこの美術館にやってきたんだけど……。

絵心含め、美的センスが乏しい自分に、美術館はかなりハードルの高いスポットだ。

記憶の中の私は、一体どんな風の吹き回しでここを訪れたのだろうか。



「結婚する、1年くらい前だな。礼が取引先の人からこの美術館でやってる展覧会のチケットをもらって、俺もどうかって誘ってくれたんだ。ここは、俺たちが初めてふたりで出かけた場所」

「え……そう、なんだ」



皐月くんと私の初デートの場所が、美術館だったとは。

なんだかそれだけ聞くと、かなーり知的カップルっぽい。

……でも。
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