新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
「まあ、来てみたはいいけど、俺も礼も『よくわかんないな』って言って笑ってたんだが」



肩をすくめて付け加えた彼に、私はくすりと笑みをこぼした。

意外だ。皐月くんってこういう場所似合うのに、よくわかんないのか。

そのギャップにひそかにキュンとしてしまって、緩んだ頬をなかなか戻せない。

というか、初めてふたりで出かけたのが入籍の1年くらい前なら……付き合い始めたのも、その頃ってことになるのかな?

そういえば私は、皐月くんに入籍した日やそれ以降の暮らしについての話は聞いたけれど、交際に至った経緯や恋人関係だった頃の話はまだ聞いていなかった。

医師から「あまり過去の情報を詰め込みすぎないように」と念押しされているため、互いに慎重になっているのは大きな理由のひとつ。

あとはまあ、なんとなく……改めて尋ねるのが気恥ずかしいというのも、あったりするんだけれど。

その後も館内を見て回ったが、結局私がこの場所で何らかの記憶を取り戻すことはなかった。

うーん。もしかしたらこのままトントン拍子に進展したりして?!……なんて期待は甘かったかあ。

そう簡単に上手くいくわけないと理解していたつもりとはいえ、若干の落胆は禁じ得ない。

落ち込む私に気づいた皐月くんが「まだ1箇所目だろ」と励ましてくれ、その優しさに胸があたたかくなった。
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