新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
気を取り直して、思い出の地巡りを続ける。

……が、その後の“結婚記念日に食事したフレンチレストラン”や“デートで訪れた水族館”、それから皐月くんには現在進行形、私にとっては元職場である本部の前にやってくるも、私の記憶には何の変化も起きず。

彼と過ごす時間はとても楽しかったけれど、あの公園で感じたような不思議な感覚は、どの場所でもやってこなかった。



「ここの1階部分にある本店営業部に、礼は配属されていたんだ。俺が今いる融資部は、4階」



そんな説明を受けながら、目の前にそびえる建物をぼうっと眺める。

入行以降私は2つの支店を経験したのち、この本店営業部へと異動してきたらしい。

それが、結婚を理由に退職することになる1年前。

つまり、私たちは1年間同じ建物内で働いていたということだ。

同期とはいえ、別々の本支店に配属されていればなかなか顔を合わせる機会もないだろうし……もしかして、この異動がキッカケで付き合うようになったとか?

そう考え思ったままに訊ねてみれば、皐月くんは少し迷ったのちうなずいて「ああ、そうだよ」と答えた。

歯切れの悪い彼の様子に、なんとなく引っかかりを覚える。

けれど私が口を開くより早く、皐月くんが続けた。



「礼、疲れただろ。今日はこのあたりにして、そろそろ帰った方がいいんじゃないか?」



私の顔を覗き込むようにして彼が話す。
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