新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
何がなんだかわからない。

私がここにいる意味も、彼がここにいる理由も、どうして彼が、私を名前で呼ぶのかも。

一体、何が起こっているの?

そのとき、廊下からせわしない足音が近づいてきて部屋の引き戸が開いた。

白衣姿の初老の医師と女性看護師が、そのまま中へと入ってくる。



「よかった、気がつかれましたか」



近づくなり手首を取られ、医師に脈拍や顔色も確認された。

「気分はどうですか?」、「痛みは?」などと立て続けにされる質問に反射的に答えてから、思いきってこちらからも問いかける。



「あの、私、どうしちゃったんですか?」

「ああ、記憶が曖昧になっているんですね。越智さんは昨日の夕方公園の階段から落ちて、意識がないまま救急車でここへ運ばれてきたんですよ。半日以上眠っていたので、心配しました」



優しく宥めるような声音で答えた医師の言葉に、私はふたつの意味で眉を寄せた。

公園の階段から落ちた……のは、覚えはないけれど現在の自分の怪我の状態からそうなのだろう。

……でも。
私はちらりと、未だ寄り添うように傍らに立つ“彼”に視線を向けた。



「えっと……越智くんも、一緒に落ちたの?」

「は?」

「え?」



越智くんと、医師の声が見事に重なる。

私はなぜかなんともいえない居心地の悪さを感じながら、ベッドの上で身を縮めた。



「だって今、先生が……『越智さん』って」



私がボソボソとつぶやいたひとことで、室内に嫌な沈黙が落ちる。

目を丸くし絶句している越智くんの隣にいる医師が、さっきまで見せていた安堵の表情を緊張感のある引き締まったものに変えた。



「すみません、いくつか質問しますね」

「え、あ、はい」



とっさにうなずくと、医師は私を安心させるように少しだけ微笑む。
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