新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
「ありがとー。でも、本当にすごいよ皐月くん。今まで私、描いた絵をこんなにちゃんとわかってもらえたことないよ! うれしいなあ」



言葉通りの感情で、自然に顔がニコニコと緩んだものになった。

皐月くんはレンズの奥の目を優しく細め、紙ナプキンに長い人差し指をコツンと載せる。



「わかるよ。付き合い長いからな」



柔らかく、そしてどこか得意そうにしているような声音で言いきった彼に、ドキッと胸が高鳴った。

そっか……入行して初めて出会ってから、丸6年以上。結婚したのは、1年ちょっと前。

改めて考えると、とても長い間、“私”はこの人と過ごしているんだなあ。

そんなふうに思って、ふと、私たちはどのくらいの恋人期間を経て結婚に至ったのかと疑問を抱いた。

気恥ずかしい感情はなくならないけど、アルコールが入ったこの勢いで尋ねてみよう。

意を決し、右手のボールペンをギュッと握り込む。



「ねぇ、皐月くん……」

「ん?」



口もとにロックグラスを運びかけていた手を止めて、皐月くんがこちらに視線を向けた。

ゴツめの黒い腕時計をしたその手首から肘にかけ、はっきりと筋肉の線が浮いている。

それを見て、ああ、かっこいいなと自然に胸をキュンとさせながら続きを口にしようとした。
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