新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
(3):いつかの涙、最初のキス
ありがたいことに日々それなりの数の来客があるこのCafe fluffyにも、いわゆる遊休時間──アイドルタイムが発生することはある。
訪れるのは、だいたいがランチタイム後。
そんなときは古都音さんとふたり雑談を交えつつ、今後出す期間限定メニューについて意見を出し合ったりして過ごしていた。
「そういえば礼ちゃんは、旦那さんと来週の花火大会行くの?」
シャープペンシルを動かしていた手を止め、古都音さんがふと思い出したように訊ねてくる。
今まさに、Cafe fluffyはアイドルタイム。彼女が持つバインダーに挟まれている紙はふたりの意見を盛り込んだ限定メニューのイメージ画で、来月はさつまいもを使ったチーズケーキだ。
これを見ても、明らかに古都音さんの方が私より何倍も絵を描くのが上手だとわかるのに……彼女はどうしていつも私に店内のメニューボードに添えるイラストを描かせたがるのか、本当に解せない。
そんな思いでつい唇を尖らせていた私は、ドリンク用のグラスを磨く手を止めずに隣の彼女と目を合わせた。
「花火大会ですか? さあ……特にそんな話はしてないですけど」
「え、そうなの? せっかくなんだし、浴衣デートすればいいのに」
「浴衣デート……」