新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
「あ、ごめんね礼ちゃん、私別に怒ってるとかじゃないからね? ただ、今の礼ちゃんが幸せそうでよかったなあって思って、ついいじっちゃうのよ」
彼女のそのセリフを聞いた私は、どこか引っかかりを覚えた。
疑問のままに「え?」と思わずつぶやけば、古都音さんはさらに続ける。
「だって、事故にあって休む前の礼ちゃんは、こうやって新婚の幸せオーラ全開で旦那さんのこと話したりしてくれなかったもの。それが悪かったってわけじゃないけど、私今の礼ちゃんのわかりやすい惚気に癒されてるからねー」
ニッコリ笑顔の彼女の口から出た話に、乾いたクロスを持つ手がふと止まった。
……まただ。
今の“私”と29歳の“私”との間にときおり垣間見える不可解な差異が、妙に心をざわつかせる。
きっと、記憶を失くす前の“私”は自分でも思う以上に大人になっていて、考え方も変化しているだけ。
そんなふうに言い聞かせながら、本音では抜け落ちてしまった記憶の大きさに心もとなくなって、途方に暮れるときがある。
情けない本当の自分を閉じ込めるように笑みを浮かべ、再びグラスを磨く手を動かし始めた。
「ちょっと照れますけど、それならよかったです。でも、私をいじるのはほどほどにしてくださいね?」
「いやー、だって礼ちゃんの反応かわいいんだもん」
「『だもん』じゃないですよー」
きっとこんな言いようのない不安も、全部、記憶を取り戻せば消えてなくなるはずだ。
どうしてか自分の中から消えてしまった、7年間。
あまりにも長いその空白に、私は思いを馳せるのだった。
彼女のそのセリフを聞いた私は、どこか引っかかりを覚えた。
疑問のままに「え?」と思わずつぶやけば、古都音さんはさらに続ける。
「だって、事故にあって休む前の礼ちゃんは、こうやって新婚の幸せオーラ全開で旦那さんのこと話したりしてくれなかったもの。それが悪かったってわけじゃないけど、私今の礼ちゃんのわかりやすい惚気に癒されてるからねー」
ニッコリ笑顔の彼女の口から出た話に、乾いたクロスを持つ手がふと止まった。
……まただ。
今の“私”と29歳の“私”との間にときおり垣間見える不可解な差異が、妙に心をざわつかせる。
きっと、記憶を失くす前の“私”は自分でも思う以上に大人になっていて、考え方も変化しているだけ。
そんなふうに言い聞かせながら、本音では抜け落ちてしまった記憶の大きさに心もとなくなって、途方に暮れるときがある。
情けない本当の自分を閉じ込めるように笑みを浮かべ、再びグラスを磨く手を動かし始めた。
「ちょっと照れますけど、それならよかったです。でも、私をいじるのはほどほどにしてくださいね?」
「いやー、だって礼ちゃんの反応かわいいんだもん」
「『だもん』じゃないですよー」
きっとこんな言いようのない不安も、全部、記憶を取り戻せば消えてなくなるはずだ。
どうしてか自分の中から消えてしまった、7年間。
あまりにも長いその空白に、私は思いを馳せるのだった。