新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
「まず、あなたのお名前と年齢をお聞かせください」

宮坂(みやさか)、礼です。22歳です」

「今は、何をされてますか」

「えっと、こないだ大学を卒業して……ああ、そうだ、今日は就職した銀行の入行式だったんです」



いや、ここに運ばれたのは昨日だって言ってたから、式も昨日になるのかな?

そして、傍らにいる越智くんは、私の同期だ。3月半ばからあった研修で初めて顔を合わせ、同じグループになったこともある。

あれ? でも、私が覚えてる限りでは、入行式や配属先の支店での挨拶は無事に終わって……ヘトヘトになりながらも、その夜普通にひとり暮らしの部屋のベッドに入ったと思うんだけど。

首をひねる私の周りで、医師と看護師、それから越智くんは黙ったままだ。

そのくもった表情と沈黙に、理由もわからず背筋をひやりと冷たいものが通り抜ける。

そして、医師がまた重い口を開いた。



「……落ちついて、聞いてくださいね。あなたは現在、29歳で……ご結婚されて、今は苗字も変わっています」

「え?」



29歳? 苗字?

混乱しきっている私の顔を覗き込むようにして、医師は続けた。



「越智礼さん。所持品のバッグに入っていた保険証と確認のためご主人からうかがったあなたの名前は、そのようになっています」



ズキズキと頭が痛む。

無意識に手が白くなってしまうほどの力で掛け布団を握りしめる左手の薬指には、覚えのない硬い感触。

そして無言のまま私を見つめる越智くんの同じ側の手、同じ指にも、同じデザインの指輪があって。

カーテンの開け放たれた窓から差し込む日差しを受け、きらりと光っていた。
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