新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
どう返事をするべきか、まごついていたときだ。

突然、勢いよく左腕を掴まれて、驚きながらそちらを振り向いた。

見知った人物とメガネのレンズ越しに視線が交わり、目をみはる。



『……よかった。見つけた』

『あ……越智くん』



彼のつぶやきに反応して、ポツリと名前を呼んだ。

越智くんは軽く肩を上下させ、呼吸も若干荒くなっている。

もしかして……私を、探し回ってくれてた?



『宮坂、知り合いか? あ、もしかして一緒に来てた彼氏?』

『へっ』



元クラスメイトの思いがけないセリフに、ぐりんと顔をそちらへ向けた。

慌てて否定しかけた私の腕を掴んだままだった越智くんが、なぜかその手を軽く引いて自分に寄せる。



『そうです。礼がお世話になりました』

『えっ、え?』

『いやいや、全然ー。よかったな宮坂』

『あ……』

『それじゃあ、俺たちは失礼します。行こう、礼』



混乱する私の手を引いて、越智くんは歩き出した。

気のいい元クラスメイトたちに見送られながら、私は唖然と目の前にある背中を見つめる。

なぜ? どうして、越智くんは、あんな嘘をついたのだろう。

彼と私は、ただの同期だ。恋人でも──さっきみたいに名前で呼ばれたことだって、1度もないのに。
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