恋、花びらに舞う
1. 花霞


春の優しい風に吹かれて、はらはらと花びらが舞う。

重なり合う枝に咲き誇る薄桃色の花は、視界のすべてを被い尽くすほど咲きほこり、華やぐ季節の到来を誇示している。



「今年は満開が早いな……桜を見ると、自分が日本人だと思うよ」


「あなたでもそんなこと言うのね。満開の時期なんて興味ないと思ってた」


「ゆうに、初めて会ったとき桜が咲いていた」


「そうだった? あまりに前すぎて忘れちゃった」


「俺は覚えてる。桜の中でゆうを見つけた、ゆうしか見えなかった」


「見つけてくれてありがとう……」



後ろから抱きしめながら、出会ったころの素直な気持ちを口にした男を、由梨絵はいとしいと思った。



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