恋、花びらに舞う
予選の成績は上々で、本選は和真が監督になって初の表彰台という華々しい戦績であった。
祝杯を挙げて部屋に戻った和真は、まだ興奮がさめないのかレースについて話が尽きない。
「つづきはシャワーのあとでもいい? 少し待ってて」
「待てない」
「待てないって、子どもみたいなこと、言わないでよ」
「一緒がいい」
その瞬間頬が染まった由梨絵に気がつきながら見て見ぬふりで、和真は由梨絵の手を引いてシャワーブースへ向かった。
それからは和真のペースだった。
シャワーのあいだもベッドでも、由梨絵は言われるまま、されるままだった。
「ピアス、取れよ。耳の後ろにキスが出来ないじゃないか」
そう言いながら、由梨絵がピアスをはずすのを待ちきれず、和真は耳に唇を這わせた。
「ピアスなんかしなくても、ゆうは十分にいい女だ」
「それ、あなたの口説き文句?」
「誰にでも言わない」
「じゃぁ、誰かに言ったんだ」
「だからなんだよ」
「あら、開き直るのね」
「ゆう……」
「なあに?」
「今年のクリスマスだが」
「まだ夏も終わってないのに、もう冬の予定? まっ、いいけど。
何もありません。12月は全部あいてます。だから……」
そこまで言って、由梨絵は言葉を止めた。
背中にいる和真の緊張が伝わってくる。
「だから、あなたの時間を、全部私にちょうだい」
「全部って、どれくらいだ」
「だから全部よ。レースはオフシーズンでしょう? 日本で……あなたの部屋か、私の部屋で過ごすの。
食事をして、話して、音楽を聴くのもいいわね。ずっと一緒にいましょう」
「わかった」
背中から抱きしめる手の強さを感じながら、由梨絵は幸せな気分に浸っていた。
この男を支えようと決めて、全力で和真に向き合うつもりで、彼の冬の時間が欲しいと口にしたのに、和真の腕に包まれて幸せな気分になった。
互いに求め合い支え合う関係は、由梨絵にこれまで味わったことのない快感をもたらした。
木陰で休みながら風を感じられるような、心地良い時間をふたりで持てたら……
和真の腕の中で体の向きを変えた由梨絵は、目の前の唇に近づき、甘く痺れるようなキスを贈った。