【社内公認】疑似夫婦-私たち(今のところはまだ)やましくありません!-
0.ニセモノ夫婦の朝

「おはよう」

 見慣れないシックな寝室に置かれたベッドの中、隣に目を向けると彼が頬杖を突いてこちらを見ていた。いつもはワックスで程よく固めている前髪が、寝起きの今はぺたんとなっていて少し長め。そこから覗く綺麗なアーモンド型をした黒目の大きな瞳は、笑うと少しだけ垂れ目になる。

「……おはようございます」

「なんで敬語になるかな」

 軽快な笑い声をたてて、彼――――私と同じ会社に勤める森場涼真は、そっと私の頭に手を伸ばしてきた。掛布団から出ている肩や胸や腕の肌色がまぶしい。鍛えているのかキュッと引き締まっていて逞しく、眉目秀麗なのもあって、某女性雑誌の表紙を飾っていてもおかしくなさそうだ。
 彼の大きな手は私のセミロングの髪を優しく梳かし、自然な流れで頬に触れてくる。頬をまぁるく包んできたその手のひらは温かく、私は自分のものではない体温がすっと馴染んでいくのを心地よく感じていた。

「体は平気?」

「……うん」

「ほんとに? 結構無理させたと思うんだけど……」

 何とは言わないけれど夜の行為をほのめかす口振り。彼は頬に触れていた手で慈しむように私の目元や耳をくすぐりながら、甘く色っぽく囁いてくる。

「すごく可愛かった」
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