【社内公認】疑似夫婦-私たち(今のところはまだ)やましくありません!-
湯川さんはにっこりと笑顔を私に向けると、部屋の奥を振り返って声をあげる。
「森場! 例の子来たよー」
湯川さんの呼びかけに反応して、書棚の陰からひょこっと頭を覗かせた人物。
彼こそが。
「――ああ」
低すぎず高すぎない、耳によく馴染む声。森場くんが私のことを見ていた。書棚の陰から私の姿を確認すると、何か作業の途中だったのか一度書棚の奥へ引っ込んですぐにまた出てきた。
今日はフランネルシャルを腕まくりして、チノパンにスニーカーというラフな姿。乱れた髪を手櫛でなおしながら近寄ってくる――彼の目に私が映っている。
まるで芸能人が目の前に現れたみたいな高揚感に襲われた。心臓が早鐘を打ち、上手に息ができなくなった。入社してきてからずっと、願っても目が合わなかった人が、今はまっすぐこっちを見ていることを思うと、クラクラする。
けれどぼんやりしているわけにもいかない。彼が私の前で足を止めると同時に私はハッとして、深々と頭を下げた。
「あ……営業からきました! 吉澤奈都です。今日からお世話になります」
頭を下げながら、まだドキドキしてる。彼のスニーカーの爪先に目をやる。ほんとに森場くんと対面している……。今までろくに会話をしたこともなかったけど、面と向かって話せば、さすがに思い出す……?
そんな淡い期待を抱きながら頭を上げ、視線を彼の顔に戻した。そしたら、次に見た彼の顔は――とても爽やかな笑顔で。
「森場! 例の子来たよー」
湯川さんの呼びかけに反応して、書棚の陰からひょこっと頭を覗かせた人物。
彼こそが。
「――ああ」
低すぎず高すぎない、耳によく馴染む声。森場くんが私のことを見ていた。書棚の陰から私の姿を確認すると、何か作業の途中だったのか一度書棚の奥へ引っ込んですぐにまた出てきた。
今日はフランネルシャルを腕まくりして、チノパンにスニーカーというラフな姿。乱れた髪を手櫛でなおしながら近寄ってくる――彼の目に私が映っている。
まるで芸能人が目の前に現れたみたいな高揚感に襲われた。心臓が早鐘を打ち、上手に息ができなくなった。入社してきてからずっと、願っても目が合わなかった人が、今はまっすぐこっちを見ていることを思うと、クラクラする。
けれどぼんやりしているわけにもいかない。彼が私の前で足を止めると同時に私はハッとして、深々と頭を下げた。
「あ……営業からきました! 吉澤奈都です。今日からお世話になります」
頭を下げながら、まだドキドキしてる。彼のスニーカーの爪先に目をやる。ほんとに森場くんと対面している……。今までろくに会話をしたこともなかったけど、面と向かって話せば、さすがに思い出す……?
そんな淡い期待を抱きながら頭を上げ、視線を彼の顔に戻した。そしたら、次に見た彼の顔は――とても爽やかな笑顔で。