【社内公認】疑似夫婦-私たち(今のところはまだ)やましくありません!-
「も……ほんとに、森場くん。いい加減にして……」

「ごめんごめん。いや、でもさ。お陰でちょっと何か掴めた気がするんだ~」

 あのやり取りで一体何が掴めたというの……。

 絶対に〝からかわれただけ〟だと思った。でも森場くんが、一切の下心を見せず純粋な目をキラキラさせているから、〝あ、これほんとに仕事のことしか考えてないな……〟と思わせられた。

 よくよく考えれば、森場くんクラスの人が私に下心を持つとも思えない。百パーセント仕事目的だったんだと思うと、〝やっぱそうだよなぁ〟と納得してしまう。

 同時に少し落ち込む。ちょっとでもドキドキしてしまった自分が馬鹿みたいだ。

(……でも……私のこと憶えててくれたんだよね)

 それだけはとてつもなく嬉しい。子どもの頃の思い出を大事に持っているのは自分だけだと思っていたから、そうではなかったと知って嬉しい。

 ちらりと隣の森場くんの顔を盗み見る。彼の横顔は、今にも鼻歌を歌いだしそうなくらい、なんだかとっても機嫌がよかった。

 もう一回、昔の話をしてもいいかな? さっきは斧田さんに弁解するのに必死で突っ込んだ話ができなかったけど、もっと聞きたい。彼が昔のことをどれだけ憶えていて、それを今、どんな風に思っているのか。

 好奇心がムクムクと湧いてきて抑えきれず、私は意を決して彼に思い出話を振ろうと。

「っ……あの! 森場く――」

「吉澤さん!」

「は、はい!」

 話しかけたらそれを上回る勢いで名前を呼ばれ、とっさに返事をする。
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