【社内公認】疑似夫婦-私たち(今のところはまだ)やましくありません!-
 みんなもそれを理解しているなか、しかしどこかで区切りはつけないといけないことに頭を悩ませている。「う~ん……」と悩む声が方々から聞こえるプロジェクトルームの中で、私はおそるおそる挙手した。

「あの……思い切って、しばらく開発をストップするのはどうでしょうか」

 チームの面々の視線が一気に私のもとへ集まってくる。

(あっ、これ、なかなかのプレッシャー……!)

 社内のスターの面々はみんな目力がある。私よりもずっと経験値があって賢い人たちが、私の発言に注目して評価を下そうとしているのは、考えてみればものすごいシチュエーションだった。

 肌がビリビリする。油断すると声が震えそうになるのを堪えながら、私は続けた。

「今がアイデアが浮かびやすい時期だというなら、たとえば〝二週間〟とか期限を設けて……森場くんには企画に専念してもらって、悔いのないよう出しきってもらったほうがいいんじゃないかと思いました」

 静まり返るプロジェクトルーム。みんなが一斉に頭の中の電卓を叩き始めたのがわかった。それぞれのセクションにおいて〝二週間〟のロスは許せるか。それを差し引いても森場くんのアイデアに期待する価値があるか。

 後者はたぶん心配ない。彼は社長からも絶対の信頼を寄せられるエース。問題があるとしたら前者だ。時間の皺寄せによって短い時間の中でこなさなければいけなくなる業務のことをみんな心配している。「言うのは簡単だけどさ」という雰囲気が感じ取れた。
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