【社内公認】疑似夫婦-私たち(今のところはまだ)やましくありません!-
 照れてしまったことを悟られないようにゆっくりと目をそらした。幸いこちらの様子に気付いていない森場くんは、ベッドを抜け出して洗面所へと足を向ける。

「そろそろ支度しようか。シャワーどうする?」

「大丈夫。昨日もお風呂借りたので」

「そっか。まあ、そうだよな。別に汗かくようなこともしてないしな……」

 雰囲気で既にお察しの方もいるかもしれませんが、私たちの間には昨晩、本当に何もありませんでした。〝昨晩〟に限らず今日に至るまでずっと、やましいところは何もありません。ただ私が彼の部屋に泊まり、同じ布団で眠って朝を迎えただけ。さっき彼がほのめかしたような体の関係もないし、ましてや私たちは、恋人でもない。


 森場くんが顔を洗って歯を磨いている間に私が朝食の準備を始め、戻ってきた彼とバトンタッチで洗面所へ行く。顔を洗い、歯を磨き、持ってきていた出勤用の服に着替えて軽く化粧も施した。化粧をしたまま眠るわけにはいかないとはいえ、明るいところで長時間彼にすっぴんを晒すのは憚られる。

 朝食の席に戻ると森場くんも既に着替えを終えてトーストを齧っていた。

「ごめん、先食べてる」

「ううん、いいよ」

 ちょうどいいタイミングでトースターが〝チン!〟と鳴って、私が洗面所から戻ってくる時間を見計らってパンを焼いてくれていたことを知る。私は「ありがとう」と御礼を言ってトースターからパンを取り出し、自分の分のコーヒーを注ぐ。

 それらをテーブルに運んで森場くんの正面に腰掛けると彼はもうトーストを食べ終えていて、コーヒーを飲みながら新聞のチェックに入っていた。私はこの時間、トーストを食べながらそんな彼の姿を盗み見るのが好きだ。
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