【社内公認】疑似夫婦－私たち（今のところはまだ）やましくありません！－

　ロクハラ寝具の商品企画部エース、森場涼真は、実は私の幼馴染だ。――とは言っても、接点があったのは幼稚園から小学校三年生くらいまで。その頃は家が近所だったこともあり、親同士の仲が良かった私たちはお互いの家によく遊びに行っていた。結構仲もよくて、お昼寝だって一緒にした記憶もあるのだが、その後は彼の家が校区外に引っ越してしまい疎遠になった。

（でも……たぶん向こうは憶えてないんだよねぇ）

　彼と私と同期入社。それなら少なからず接点がありそうなものだけど、残念ながらまったくない。ロクハラ寝具では採用面接時に配属先が決められ、新人研修はそれぞれの配属先で個別に行われる。新入社員が一堂に会するのは最初の入社式だけで、それ以降は同じ案件に携わったり、社内サークルで一緒にならない限りは接点がない。

　入社直後は、何度か自分から森場くんに声をかけてみようかと思った時期もあった。だけど私から「憶えてない……？」と話しかけて、「憶えてない」とバッサリ切られることを想像すると、恐ろしくてできなかった。

　そうこうしているうちに私たちは入社六年目になってしまって、森場くんは仕事で続々と成功を収め、今ではすっかり手の届かない人になってしまったという……。女子社員からも人気の今、「実は幼馴染なんです！」って言って近づいたりなんかしたら、まるで彼が成功してるから近付いたみたいに思われてしまうかも。それはちょっと嫌だった。

（我ながら面倒くさい……）

　きっとこのまま関りを持つこともなく、遠くから彼を眩しく見ているだけで終わるんだと思っていた。

　それなのにまさかここにきて、同じプロジェクトに配属されようとは。