可愛がりたい、溺愛したい。



授業の準備をしていなかったので、あわてて時間割を確認して教科書を机の中から探す。



えっと……1時間目は英語か。


辞書はカバンに入っているし、ルーズリーフを用意して、あとは教科書……って、あれ。



たしかに持ってきたはずだと思っていたのに、何度探しても見当たらない。


もう授業は始まっていて、今さら誰かに借りに行くこともできなくてあわてていると。



「帆乃、どーしたの?」


隣から依生くんの声がして。



「あっ、えっと教科書……」



忘れたって言う前に、依生くんが机をガタンッと動かして、わたしの机にピタッとくっつけた。


そして教科書を机の間に置いてくれた。



「いーよ、僕と一緒に見よ」


「い、いいの?」



「うん、いーよ」


今回のはわざとじゃなくて、本当に忘れたんだよって、意味もなくそんなことを胸の中で思う。

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