可愛がりたい、溺愛したい。



顔はチラッとしか見えなくて、誰かわからなかった。

女の子が依生くんの手を引いて、どこかへ連れて行くところを目撃してしまった。



べつにまだ何かあったわけでもないのに、まるで浮気現場を目撃したような気分。



「えっ、ちょっ、今の三崎くんだよね?
なんで女の子に手引かれて一緒に……」


こうやって、どんどんすれ違っていって、最終的には別れる……みたいなありがちなシナリオ。


それが今の自分が置かれている立場だなんて認めたくもない。


「と、とりあえず事情をちゃんと聞こう!きっと何か理由があるんだよ!」


「っ……、ごめん…帰るね……っ」


せっかく心配して、励まそうとしてくれている明日香ちゃんを振り切って教室を飛び出した。


泣きたくないって思うのに、その意思に反して涙は止まってはくれない。

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