好きになるには理由があります




 失礼しました、と深月が廊下に出ると、杵崎がやってくるところだった。

「また支社長室で、いちゃついてたのか」
と睨まれたので、

「いちゃついては……」
と言いかけて、深月は、はっ、と振り向く。

 廊下の曲がり角の白い壁を見ながら深月は言った。

「今……、人の気配が。
 犯人ですかね?」

「……なんのだ」

 いや、隠れて見てるなんて怪しい人ではないかと思っただけなのだが……。

 そのとき、深月のスマホのアラームが小さく鳴った。

「あっ、十時ですね。
 ちょっと社内見学行ってきますっ」

「たまにはちゃんと仕事しろよ」
と口を開けば毒を吐く杵崎に見送られ、行ってきます~と深月は急いで、下の階に下りた。



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