好きになるには理由があります



 結局、陽太と二人、街のフードコートに行った。

 こういうところなら、人波に紛れ、誰の目にもとまらない気がするからだ。

 ずっと『Coming Soon』になっていたフードコートの一角にクレープ屋さんが入っている。

「私、昔クレープってあんまり好きじゃなかったんですけど。

 たまたま、移動販売のクレープ屋さんのを食べたら、すごく美味しかったんですよね~」
と言って見つめていると、

「じゃあ、並ぶか?」
と陽太は言う。

 新しい店のせいか、長蛇の列だった。

「そうだ。
 お前、座っとけよ。

 俺が並んでやるから」

 一日巫女さんして疲れたろう、と言う。

 だが、座って席をとらねばならないほど混んでいるわけでもない。

「いやいや、一緒に並びますよ」

「いいから座っとけよ」
と言いながら揉めていると、前に居たキャップをかぶった子連れの男が振り返り、

「いいよな、付き合いたてのカップルは。
 そうして、いちゃいちゃしてる間に順番来るから」
と言ってくる。
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