好きになるには理由があります
深月が出て行ったあと、陽太は思っていた。
英孝め。
深月と出勤するために自転車まで買ったのか。
……深月は船に乗っていってくれないから、俺も自転車を買うべきなのかっ。
いや、やはり、車を買って、朝迎えにいくべきかっ。
いやいやいや。
そうじゃないだろう、と陽太は思う。
昨日、祝詞を上げる清春の側で控えていた深月を。
装束をまとい、舞っていた深月を思い出す。
神に仕える深月を手に入れたいのなら、俺が神に近づかねばっ。
お前が神のものだと言うのなら、俺に神が舞い降りるよう、俺は頑張る!
この間注意された点を思い出しながら、舞い始めたとき、
「支社長」
とノックして、営業の係長が入ってきた。
陽太は窓からの光を背に、両手を差し上げた状態で止まっていた。
「……仕事前の準備運動だ」
はい……と言って、係長は、ぱたん、と扉を閉めた。