好きになるには理由があります
その日、陽太は初めてお面をつけて最後まで舞っていた。
だが、裏に引っ込んだ陽太は外した途端、深月に文句を言ってくる。
「前が見づらい。
息するとき、変な感じだ。
フェンシングの面より違和感があるっ」
いや、まず、フェンシングしたことありません、私……と深月は苦笑いして思っていた。
鬼の赤い面を手に陽太は呟く。
「だが、面を被ると別人になったような気がするな。
いつもの自分から解放されるというか。
普段なら言えないことが言える気がするというか」
と陽太は言い、ふたたび、面を被った。
深月を見る。
「深月。
お前が好きだ」
「お前は、普段から言ってるじゃないか。
ありがたみはないな」
そう言いながら、清春が後ろを通り過ぎた。
深月と陽太は、チラチラッと視線を合わせる。