好きになるには理由があります
 支社長が帰るより先に出た方がいいな、と思った深月は、おばちゃんたちと一緒に給湯室に行くと、湯を沸かしたりするのを手伝いながら言う。

「すみません。
 今日はこれで失礼します。

 次は最後まで残りますので」

 すると、おばちゃんたちは、

「ああ、いいのいいの。
 深月ちゃん、いつも仕事帰りに来て、最後まで居るから。

 たまには早く帰りなよ」

「お疲れ様ー」
と言って、気持ちよく送り出してくれた。

 ……振り返らなかったが、もしかしたら、背後で、則雄のように、にんまり笑っていたのかもしれないが。

 そもそも、ノリさんが私たちがそわそわしてると気づいたのに。

 鋭いおばちゃんたちが気づかないなんてことはないような……。

 だがまあ、とりあえず、清ちゃんに捕まらなければ、なんとかなるだろう。

 この隙に、すうっと帰ろう、すうっと、と思いながら、ホールに戻ろうとすると、万理がロビーに立っていた。

「ほら、鞄とコート」
と自分の荷物に紛れさせて持ってきてくれたそれを出してくる。
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