好きになるには理由があります
 急に上げた深月の頭で顎を打ったらしい男が、

「いてっ」

と声を上げる。

 その顔を見て、深月はまた叫んでいた。

「誰っ!?」

 男は顎を押さえて言う。

「誰ってなんだ。

 俺だ」

と言ったあとで、男はフリーズしている深月の顔を見て、一瞬考え、前髪を少し手で持ち上げると、側に置いていた黒縁の眼鏡をかけてみせた。

「俺だ」

「し、支社長っ」

 新しく来た支社長、飛鳥馬陽太《あすま ようた》だった。

 若いイケメンでしかも、会長の孫だと言うので、おねえさま方がみな、狂喜乱舞している。

「まあ、この眼鏡は伊達眼鏡なんだが……」

と言いながら、陽太は眼鏡を外してサイドテーブルに置いた。

 支社長、前髪下ろしてると、ちょっと可愛らしいではないですか。

 いつも、厳しい顔つきをしているのに……

 じゃなくてっ、と深月は叫んだ。

「支社長、何故、此処にっ」

「いや、お前が何故、此処にだろ」

と言われ、深月は周囲を見回す。
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