好きになるには理由があります
 波が揺れて、なんだか気持ちよく、母親のお腹に居る胎児のように落ち着いた。

「このままいつまでも眠っていられそうです」
と笑うと、

「眠ってればいいじゃないか」
と陽太が囁く。

「いやでも、遅刻するんで……」

 春になったので、あのときより、夜が明けるのが早い。

 もう空は白み始めていた。

 顔の真上にある天窓からだんだん明るくなっていく空を見ながら、深月は思う。

 このゆっくり明るくなっていく感じが、なんだか、これからの未来を暗示しているみたいだと。

「今でよかったです」
と深月は言った。

「あのときでなくてよかったです。
 支社長……、陽太さんを好きな今でよかったです。

 大好きです、陽太さん」

 ……うん、と陽太が嬉しそうに笑い、深月の手を握ってきた。

 そのまま二人で天窓から空を眺めていた。
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