好きになるには理由があります
 勝と良彦も仲はいいが。

 なにもわだかまりがないわけではないだろう。

 二人とも、神楽に参加しないのがその証拠だ。

 神楽団は、勝や良彦、条子にとっての青春そのものだったようだから。

 いろいろあった過去の思い出を振り返りたくないのだろう。

 でも、酒呑んでるときは、なんのわだかまりもなく楽しそうなんだけどな~、と漏れ聞こえてくる勝たちの笑い声に、深月は思う。

 そのとき、清春がなにかを決意したように、
「深月、たまには二人で出かけるか」
と少し明るい声で言ってきた。

 え? と振り返ると、
「いや、結婚したら、そういうこともなくなるかと思って。
 何処か休みの日に、近場にでも」
と言う。

 ちょっとだけ、陽太が現れる前の清春に戻った気がした。

 そうだねー、と言いながら考えた深月は、
「あっ、そうだ」
と言った。

「山の中のパン屋さんに行こうよ。
 この間、タウン誌に出てたんだよ。

 ちょっと変わったパンがいろいろあるんだって。

 見たことも食べたこともないようなパンがいっぱいあるって」
と笑ったが、

「いや……。
 見たことも食べたこともないようなパンは嫌かな」
と清春は言う。

 ……どんなの想像してんだ。

 そのまましばらく、母屋の笑い声を聞きながら、昔話などして過ごした。




< 501 / 511 >

この作品をシェア

pagetop