好きになるには理由があります
「抜けるか、チャリで……。
 まあ、たまに坊主頭の中学生の集団にも追いかけられるが」

「格好いいからですよ、このクルーザーが」

 実は私も船が好きなので、追いかけているというのもあるんですよ、
と深月は思っていたが。

 今、言うのはちょっと悔しく、ぐっと黙った。

 そこで、少し考える風な顔をした陽太は、
「そういえば、何故、お前が此処に居るんだろうかな」
と言い出す。

「……貴方も覚えてないんですか」

「お前もか」
と言う間も、陽太は片手で深月を抱いていた。

 ひーっ。
 離してくださいっ、と深月は固まったまま、目だけを動かし、自分の背中に触れている陽太の大きな手を窺おうとする。

「そうだ。
 昨日は確か……」
と言いかけた陽太は深月が逃げ腰になっているのに気づき、自分の方に抱き寄せた。

「さっ、触らないでくださいっ」

「……夕べ、散々触ったと思うが」

 ひいっ、と小さく声を上げたあと、深月は叫ぶ。

「なんてことしてくれたんですかっ。
 私、舞を舞わねばならないのにっ」
< 6 / 511 >

この作品をシェア

pagetop